3、『仮名草子研究叢書』

 3、『仮名草子研究叢書』

仮名草子研究叢書 菊池真一氏と共編。
 A5判、、二〇〇六年二月二六日、クレス出版発行、全八巻セッ
 ト定価八五〇〇〇円。

■第一巻 雑誌論文集成(一) 四二六頁
 目次
高野 斑山 徳川初世の名所記                     
三浦 周行 後光明天皇の御好学と朝山意林庵  
此花社同人 江戸出版の仮名草紙
水谷 不倒 仮名草子の挿絵と雛屋立圃
林若樹ほか 輪講 東海道名所記
島津 久基 御伽・仮名・舞の草子
山本 秀煌 切支丹文学の一班
石田 元季 初期の仮名草紙作者殊に如儡子に就きて
林若樹ほか 輪講 あづまものがたり
田中 喜作 師宣の初期絵入本に就て
新 村  出 伊曽保漫筆
新 村  出 影模蘭文古版絵入伊曽保物語の断簡
久保 天隨 翦燈新話に就いて
潁原 退蔵 近世文学選釈 一 恨の介
田中 浩造 伽婢子の翻案態度
潁原 退蔵 近世文学選釈 二 尤の双紙
北条 秀雄 浅井了意の生涯
森  銑 三 可笑記の著者如儡子は何人か
潁原 退蔵 近世文学選釈 三 東海道名所記
潁原 退蔵 仮名草子の発生に関する一考察
潁原 退蔵 近世文学選釈 四 可笑記
北条 秀雄 浅井了意の自筆願書
潁原 退蔵 近世文学選釈 五 元の木阿弥物語
城戸甚次郎 緑蔭比事
潁原 退蔵 近世文学選釈 六 たきつけ草・もえくひ・けしずみ 
天野佐一郎 石平道人の墓
木村 捨三 複製木版の工作過程に就て─特に岡田希雄さんに呈す
大越 長吉 仮名草子研究序説─主として、その擬物語を中心とせ
岡井 慎吾 石平道人鈴木正三が神として祀られて居る
佐藤 鶴吉 近世文学の註釈に就いて
潁原 退蔵 近世文芸の註釈的作業
野村 八良 尤の草子
                                    
■第二巻 雑誌論文集成(二) 四五四頁
 目次                      
宇佐美喜三八 伽婢子に於ける翻案について
重 友  毅 近世小説研究史略
頼 桃三郎 『難波鉦』の地位
朝田祥次郎 仁勢物語成立に就いての私見
安部 亮一 「可笑記」覚書
岡本新太郎 「醒睡笑」と裁判物
長沢規矩也 「怪談全書」の著者について
熊 谷  孝 仮名草紙小論
市古 貞次 艶書小説の考察
後藤 丹治 お伽草子と後代文学
杉浦正一郎 「犬枕」に就いて
斎藤 護一 江戸時代に於ける支那小説翻案の態度
潁原 退蔵 近世怪異小説の一源流
長沢規矩也 「怪談全書」著者続考
片岡 良一 仮名草子の輪郭
野田 寿雄 浮世物語の意義
暉峻 康隆 仮名草子の文芸性
鶴 見  誠 名所記概説─名所観に及んで─
波多郁太郎 醒睡笑の研究
岡田 希雄 東海道名所記について─製作年時および京童との関係
      など─
市古 貞次 「仮名草子」の意味
野田 寿雄 仮名草子の世界
市古 貞次 仮名草子の恋愛と死
中村 幸彦 安楽庵策伝とその周囲
麻生 磯次 近世小説
暉峻 康隆 近世小説様式論
朝倉 治彦 読後所見 策伝宛光広の書簡
水田 紀久 可笑記の著者について
松 田  修 日州漂泊野人の生涯
関山 和夫 御咄の衆の事
鵜 月  洋 近世における小説論 ─展望と評論─
松 田  修 変身
小 野  晋 近世初期評判記略年表
関山 和夫 木下長嘯子と安楽庵
寺 谷  隆 仮名草紙に於ける庶民教化の一断面
横 山  重 活字本、絵入本、色彩の本
市古 貞次 近世初期小説の一性格
中村 幸彦 仮名草子の説話性
 ★雑誌論文集成 解説 菊池真一
                                    
■第三巻 単行本記述集成(一) 六〇四頁 
 目次
水谷不倒・坪内逍遥 『近世 列伝躰小説史』上巻 
     第一章 徳川文学の起源
     第二章 仮名草子
坂本 健一 『近世俗文学史』
     第一 総 叙
     第二 前 期
藤岡作太郎 『近代小説史』
     総 論 江戸時代の風尚と時代の分割
     第一編 仮名草紙の時代
津田左右吉 『文学に現はれたる我が国民思想の研究』
     第二巻 武士文学の時代 第三篇 武士文学の後期      
     第三巻 平民文学の時代 上 第一篇 平民文学の隆盛
         時代
                                  
■第四巻 単行本記述集成(二)  六二四頁 
 目次
藤井 乙男 『江戸文学研究』
     江戸文学概観、江戸初期の三教一致物語、仮名草紙の作
     者、鈴木正三、禅僧と小説、藻屑物語と男色義理物語、
     支那小説の翻訳、松永貞徳の父祖について、むもれ木、
     歌舞妓草子
藤岡作太郎 『国文学史講話』江戸時代
藤 村  作 『上方文学と江戸文学』武士生活と町人生活
高須芳次郎 『日本近世文学十二講』
     第二講 文芸復興期前の文学
鈴木 敏也 『改訂 近世日本小説史 啓蒙から歓楽への文芸』
     序論 近世小説の背景、第一編 仮名草子の時代
水谷 不倒 仮名草子研究

■第五巻 単行本記述集成(三)   六一四頁
 目次
石 川  巖 元禄以前の花街文学
山 口  剛 『怪談名作集』解説                                     
石田 元季 『江戸時代文学考説』
山 口  剛 怪異小説研究
新 村  出 南蛮文学概観
笹川 種郎 『仮名草子集』解題
高野 辰之 『江戸文学史』部分
水谷 不倒 『新撰 列伝体小説史 前編』部分 
山 崎  麓 『日本小説書目年表』

■第六巻 単行本記述集成(四)  五二二頁
 目次
笹川 種郎 『近世文芸史』上方の小説                                      
藤井 乙男 『江戸文学叢説』浅井了意、お茶物語
鈴木 暢幸 『江戸時代小説史』
     第一編 江戸時代小説の特質
     第二編 各種小説の概観
     第三編 京阪中心期の小説
長沢規矩也 『江戸地誌解説稿』
潁原 退蔵 仮名草子
鈴木 行三 『戯曲小説 近世作家大観』第一巻
潁原 退蔵 『日本文学書目解説(五)上方・江戸時代』
山 口  剛 怪異小説研究
藤井 乙男 仮名草子の研究
宮川 曼魚 咄本の研究
次 田  潤 『国文学史新講』仮名草子
潁原 退蔵 仮名草子の三教一致的思想について
                                    
■第七巻 単行本記述集成(五) 四九六頁
 目次
近藤 忠義 『近世小説』
暉峻 康隆 『江戸文学辞典』
      凡例、江戸小説概観、仮名草子 
片岡 良一 『近世前期の文学』
暉峻 康隆 『文学の系譜』仮名草子の文芸性
潁原 退蔵 『江戸文芸』
                                    
■第八巻 単行本記述集成(六) 五一八頁
 目次
守随 憲治 仮名草子と生活文化
深沢 正憲 烏丸光広伝 附作品解説
井浦 芳信 古活字本「竹斎」の研究─仮名草子における流動性―
深沢 正憲 目覚し草(翻刻)解説
宮尾 重男 『近世笑話文学』天和年間~元和年間
暉峻 康隆 『日本の書翰体小説』
     第三章 書翰体小説の源流
     第四章 形式的完成
重 友  毅 『近世文学の位相』
     第一篇 近世文学の概観
     第三篇 方法論上の諸問題
麻生 磯次 『江戸文学と支那文学』総説
     前篇 第一章 怪異小説に於ける影響             
次 田  潤 『日本文学通史』仮名草子と浮世草子
藤井 乙男 『近世小説研究』
     一 江戸時代の小説概観
     二、元禄時代の京都小説家
     三、浅井了意
  ★単行本  解説 深沢秋男

 ■『仮名研究草子叢書』単行本 解説

一、 はじめに

 仮名草子の研究は近代から始まった、という暗黙の了解かあるように思われる。確かに『万葉集』や『古事記』や『源氏物語』等の如く、近世の人々は、同時代の著作の故か、仮名草子を確たるジャンルとも意識せず、これを分析したり、解明する対象とはしてこなかったようである。
 しかし、同時代においても、浅井了意の『可笑記評判』などは『可笑記』の出典を少なからず指摘しているし、近世後期の考証随筆類には、少なからず、考証の拠所に仮名草子作品を利用している。『瓦礫雑考』『還魂紙料』・『嬉遊笑覧』・『近世女風俗考』・『骨董集』・『書儈贅筆』・『用捨箱』・『擁書漫筆』・『柳亭記』・『柳亭筆記』・『歴世女装考』などは、その一例に過ぎないが、これらから研究上のヒントを得ることもある。このように考えると、近世の様々な著作も、仮名草子研究に寄与している点があり、これらは尊重されるべきものと思う。

  二、近代の仮名草子研究

 近代の仮名草子研究の全貌については、『仮名草子研究文献目録』(深沢・菊池共編、二〇〇四年一二月、和泉書院)によって知る事ができる。この目録では、仮名草子作品も全て収録しているが、現在、仮名草子作品の範囲が確定している訳ではない。この点に関しては、広義に解釈する説と、小説的な作品に限定するという狭義の説があり、今後検討しなければならない、大きな課題である。
 私が仮名草子研究を始めた、昭和三十年代は、一八〇点弱の作品が仮名草子として扱われていた。しかし、現在『仮名草子研究文献目録』の「第一部 仮名草子作品」に掲げられる作品は、ざっと数えても三八〇点に達する。これは、なにも数の多いのを誇っているのではない。明治以後の研究の結果がこのようになった訳である。
 仮名草子の対象を、狭義の説に従って処理した場合、近世初期の犬啓蒙期に、続々と書かれた著作の大部分が削除され、仮名草子作品の数が減少するだけでなく、結果的には、この時代の文化的潮流の全貌が把握できない事となる。
 近代の仮名草子研究の道を拓いた水谷不倒は、「仮名草子」を次の如く定義された。
  「仮名草子の名称
 寛文時代に行はれたる草子類は、学識ある人々が一般の知識を啓発せんとの目的にて、漢書、経文、さては古文等の案を翻し、または其の儘、仮名の読み易き文章に更めて紹介したるにあり。これを通例かな草子と呼べり。蓋しいかなる草子も、仮名文にて綴られざるはなきに、ひとり此の時代の草子のみに此の名目を附するはやゝ穏かならざるに似たれど、古文は仮名文なれども、ことば雅にして一般に読ましむる目的にあらず。又元禄以降は、草子類も段々六ヶ敷真字を交ふることとなり、其れに傍訓を施して、婦女子にも読み易からしめたれども、寛文ごろの草子は、日常用ふる最も容易き文字の外は、成べく真字を避けて仮名を使用し、其の目的全く文学の普及にあれば、特に此の時代の草子をかくは名づけしなり。」
                  (『近世 列伝鉢小説史』)
 水谷は、この定義のもとに、以下、如儡子の『可笑記』『百八町記』、鈴木正三の『盲安杖』『麓草分』『因果物語』『破吉利支丹』『二人比丘尼』『念仏草紙』『万民徳用』、山岡元隣の『誰が身の上』『小卮』、浅井了意の『孝行物語』『堪忍記』『本朝女鑑」『大和ニ十四孝』『新語園』『可笑記評判』『浮世物語』などを取り上げて論じておられる。
 仮名草子の研究は、以後、この水谷の定義に従って、明治・大正・昭和・平成と続けられてきたが、この「仮名草子」は、文学のジャンルから見るならば、複合ジャンルの如き性質を持っている。そこから、様々な分類がなされたり、この定義への批判も出されてきている。
 仮名草子の範囲を考える場合、様々な条件が浮かびヒがる。御伽草子(上限)や浮世草子(下限)との関係、遊女評判記・役者評判記との関係、軍書・軍学書との関係、名所記・地誌・紀行との関係、教訓書・女性教訓書との関係、仮名仏書・仮名儒書との関係、古典等の注評釈書との関係、翻訳物・翻案物との関係等々が、一応考えられる。また、実利・実用的な要素と文芸的要素の関連も、啓蒙期の文芸を取り扱う場合には特に留意しなければならないと思う。
 しかし、現時点で、仮名草子を分解するという説は、時期尚早であると考える。前述の如く、近世初期は、長い戦乱の後に訪れた、大啓蒙期にあり、百科全書家が時代をリードし、新しい文化の生成に努めた時期であったのである。文化は混沌とし、未分化であった。この時代思潮は慎重に扱う必要がある。
 また、仮名草子と目される、各作品の研究も十分行われているとは思われない。いずれかと言えば、代表的な作品に集中している傾向がある。現在では、なお、水谷不倒が「仮名草子」と命名した路線に従って、全作品の調査・分析を行い、全体像を明らかにする事が重要であると思う。その後に分解しても、決して遅くはない。当分の間は、仮名草子を広義に解釈して研究を進めたいと思うのは、このような、現在の研究段階を考慮してのことである。
 明治以降の仮名草子研究を概観してみると、必ずしも活発であったとは言えない。明治三十九年から昭和三十年頃の約五十年間に発表された論文はおよそ一五〇点、単純計算しても年間三点の論文しか書かれていない。
 ところが、昭和三十一年から四十年の十年間には一八二点の論文が発表されている。これには、昭和三十五年・三十七年刊の、野田寿雄校注の日本古典全書(朝日新聞社)『仮名草子集(上・ド)』二冊が大きく影響しているものと思われる。昭和三十七年に卒論を提出し、最初の論文を三十九年に発表している私は、まさにこの時期にあった。今、振り返ってみても、この野田の仮名草子作品への最初の校注は、我々若い研究者にとって、大きな励みとなった。
 近代に入り、仮名草子研究の道を拓かれたのは、『近世 列伝躰小説史』(明治30年)、『仮名草子』(大正8年)、『新撰列伝体小説史 前編』(昭和4年)などの労作を残された水谷不倒であり、戦後の低調な研究を軌道に乗せられたのは、昭和二十二年「仮名草子の世界」(『国語と国文学』7月)を発表し、仮名草子作品に初めて校注を施された野田寿雄であったと言ってよいだろう。
 仮名草子作品の本文研究では、昭和四十七年から刊行開始した『近世文学資料類従』が画期的なものであった。これは、前田金五郎・横山重の企画で勉誠社から出されたが、仮名草子編全三十九冊、古板地誌編全二十一冊、その後刊行された遊女評判記集をも含めると、実に八十余作品を収録している。この出版が、以後の仮名草子研究に与えた恩恵は大きなものであった。
 次に注目されるのは、朝倉治彦の『仮名草子集成』(東京堂出版)であろう。昭和五十五年に第一巻を刊行し、平成十七年までに三十八巻を出版している。仮名草子作品を網羅的に翻刻して収録するという、遠大な計画のもとにスタートして、ほぼ五十音順に刊行している。三十八巻には『女訓抄』が収録されたが、この出版計画の完結が望まれる。
 仮名草子の本文の研究に限ってみると、右の二つの叢書が注目されるが、その他にも、翻刻・校注・現代語訳など、諸先学の地道な研鑽が続けられてきた。これらに関しては、仮名草子全体の課題や研究の状況と共に、かつて、少し詳細に述べた事がある。「仮名草子研究の現状」(『文学研究』59号、昭和56年9月)、「仮名草子の範囲と分類」(早稲田大学蔵資料影印叢書『仮名草子集』月報43平成6年9月)、「仮名草子」(『日本古典籍書誌学辞典』一九九九年3月)等を参照して頂けるなら幸いである。

  三、採録の単行本

 既に述べたように、明治以降の仮名草子の研究は、必ずしも活発ではなかった。殊に、仮名草子研究として単行本で出版される事は稀であり、多くは、日本文学史、近世文学史の中の一部分として言及・論及される事が多い。また、この度の叢書に採録するにあたっても、様々な問題があり、何回か改めて、この書目が決定した。その点、編者としては不本意な点も無い訳ではないが、結果的にこれだけの、先学の労作を収録できた事に、一応満足している。
 『単行本記述集成(一)』には、明治三十年五月発行の水谷不倒の『近世 列伝躰小説史』をまず収録した。奥付の著者には、坪内逍遥も列記されているが、水谷の執筆したものを坪内に校閲してもらったものである。水谷には、『東京専門学校 文学科第一回二年級 講義録 参考科目』があり、その中の「徳川小説史要」は「凡例/序論/第一期 万治寛文/仮名草子/其一 教訓体/其二 仏教趣味の諸作/其三 心学もの/其四 翻訳」等の内容を収めている。これをもとにして執筆公刊したのが『近世 列伝躰小説史』で
あろうと思われる。文字通り、本書が仮名草子研究の出発点になったと言ってよいだろう。
 明治三十九年に、朝倉無声の『新修日本小説年表』があるが、昭和四年に、これを底本にして、山崎麓が編纂したのが『日本小説書目年表』である。さらに、昭和五十二年には、書誌研究会が、頭注の形式で増補修正を加えた『改訂日本小説書目年表』を刊行した。現在では、この年表が最も信頼できるものと思われるので、これを『単行本記述集成(三)』に収録する事にした。
 津田左右吉の『文学に現はれたる我が国民思想の研究』は仮名草子の研究書ではないが、この時期の文学を広く読み、その時代思潮を的確に述べているという点で、実に有益な著書と思われるので収録する事にした。その意味では、和辻哲郎の「日本倫理思想史」なども参照すべきであると思われる。どの時代も同じであるが、特に仮名草子のこの近世初期は、単に文学そのものだけでなく、歴史・思想・出版関係の著作も参照して、合わせ研究してゆく必要がある。そのような意味で、易しい文章でありながら、豊かな内容を持つ
津田の著作を収録した。
 『単行本記述集成』の各巻についての、個別的な説明は必要ないと思われるが、編者としては、最初、水谷不倒と野田寿雄に関しては、別に一括して、水谷では、『近世 列伝躰小説史』『仮名草子』、『新撰列伝体小説史 前編』を収録し、野田では、『近世小説史論考』『近世文学の背景』『近世初期小説論』、『日本近世小説史 仮名草子篇』を収録したいと希望していた。また、北条秀雄の『浅井了意』も収録したい名著であった。この著書については、その後、昭和四十七年に改訂版が出ている。これらの原案に関しては、様々な条件が関連して、今回は収録する事が出来なかった。さらに、ごく一部であるが、著作権の関係で採録出来ないものもあった。以上の点に関しては、別の機会があれば考慮したいと思う。

 『仮名草子研究叢書』を編纂するにあたって、著作権所有者をはじめ、多くの方々の御理解と御高配を賜った。ここに記して深甚の謝意を表します。
 この叢書編纂の話は、一昨年の暮に朝倉治彦氏から依頼された。私も前々から考えていた事であったので、喜んでお引き受けした。ただ、文献を改めて調査したり、選択する作業は、意外に労力の必要な仕事であるため、『仮名草子研究文献目録』の共編者、菊池真一氏に御協力をお願いした。雑誌関係は菊池氏、単行本関係は深沢と、一応分担したが、多くは菊池氏の御高配に負う結果となった。このような機会を与えて下さった朝倉氏の御厚情と共に、菊池氏の御協力に対して、心から御礼申上げます。                                      
              (元昭和女子大学教授 深沢秋男) 

 ■『仮名草子研究叢書』刊行に際しての、宣伝用パンフレット
                       深沢秋男執筆

 近世初期の約八十年間に書かれ、多くは出版された散文文芸の総称が仮名草子である。「仮名草子」の命名者は水谷不倒(弓彦)である。水谷は、東京専門学校(早稲田大学の前身)での講義録を著し、続いて、『近世 列伝躰小説史』を出版、さらに『新撰 列伝体小説史 前編』を出して、この中で仮名草子について論じた。近代的な研究も水谷不倒によって拓かれた、と言ってもよいだろう。
 もちろん、水谷不倒のみが、仮名草子の研究を進めてきた訳ではない。昭和二十年代以前に限ってみても、朝倉治彦・麻生磯次・石田元季・市古貞次・井浦芳信・潁原退蔵・片岡良一・近藤忠義・重友毅・新村出・鈴木行三・鈴木敏也・鈴木暢幸・関山和夫・高野辰之・暉峻康隆・長澤規矩也・中村幸彦・野田寿雄・深沢正憲・藤井乙男・藤岡作太郎・藤村作・北条秀雄・松田修・山口剛・山崎麓等々、多くの先学の努力が積み重ねられてきた。その研究論文・研究書と作品名の全貌は、『仮名草子研究文献目録』(深沢・菊池編、二〇〇四年、和泉書院)によって知る事ができる。
 仮名草子作品の数も、昭和三十年頃までは二百点足らずであったが、その後の研究によって、現在は三百点以上になっている。このようにみる時、仮名草子研究は活発に行われてきたように思われるが、明治以後昭和二十年、つまり、近代的な研究が始まってから、第二次世界大戦終結までの約四十年間に書かれた論文は一二〇点余に過ぎない。年間平均三論文という状況であった。
 戦後の研究は、昭和二十二年の野田寿雄の「仮名草子の世界」(『国語と国文学』7月)から始まるが、二十二年から三十五年までの十四年間に七十四論文という低迷が続いた。ところが、三十五年から七年にかけて、野田寿雄の日本古典全書『仮名草子集(上下)』が刊行されて、研究は活発化してきた。
 『仮名草子研究叢書』は、雑誌論文は、昭和二十九年以前のものを全二巻に収録し、単行本は昭和二十年以前のものを全六巻に収録したものである。
 近年の仮名草子研究は、細分化され、緻密な論文が多い。しかし、明治以降の先学の遺された研究が全く通用しなくなった訳ではない。むしろ、このように細分化され、微視的な傾向にある現在にこそ、明治以来の研究を振り返り、巨視的な観点から、仮名草子を見直し、先人の研究を吸収して、新たな研究の出発点にすべきではないかと考える。本叢書を刊行する所以である。

●平成一六年一二月、朝倉治彦先生から、この叢書の編纂を依頼され、私もかねがね、必要な事だと考えていたのでお引き受けした。ただ、実際に作業に入ってみると、かなりの労力を要する事がわかった。そこで、菊池真一氏の協力を頂く事にして実現したものである。収録内容に関しては、様々な制約があり、希望通りにゆかなかった部分も少なくない。それらの諸点については、今後の若い研究者に任せる事にして、一応出版することにした。
●この叢書に収録した先学の論文や単行本に、改めて目を通すと、私達は偉大な研究者の学恩を頂いて、ここまできたが、果たして、どこまで吸収消化できたのであろうかと、感謝と共に反省の念が強い。私個人としては、近藤忠義・重友毅・長澤規矩也・小田切秀雄の諸先生には法政大学で教えて頂いた。横山重・野田寿雄・朝倉治彦の諸先生には、仮名草子に関して多大の御指導を賜った。中村幸彦先生には九州大学で、野間光辰先生には京都大学で、井浦芳信先生には昭和女子大学で、諸本調査などの折に、それぞれお導きを頂いた。若い頃には暉峻康隆先生にも教えて頂いた。水谷不倒・山口剛・北条秀雄・麻生磯次・石田元季・市古貞次・潁原退蔵・片岡良一・新村出・鈴木行三・鈴木敏也・鈴木暢幸・関山和夫・高野辰之・深沢正憲・藤井乙男・藤岡作太郎・藤村作・山崎麓等々、論文や著書を通して多くを学ばせて頂いた。この叢書を編纂することで、仮名草子研究を振り返る事ができて感謝している。
     
                                    

投稿者:

fukaaki

近世文学、特に、仮名草子、近世日記文学を研究している。 昭和女子大学に勤務していたが、定年退職。現在、同大学名誉教授。 仮名草子は、特に、如儡子・斎藤親盛を研究。日記文学では、井関隆子の研究をしている。