〔検印〕2

●書籍の〔検印〕と言っても、私達が執筆する研究書のように、300部、500部発行という出版物とは異なり、年間発行部数10万、20万部というような辞典になると、著作権者も印税が目当てであるから大変である。

●私は、昭和女子大学へ移る前、10年間ほど、神田の誠文堂新光社の辞典部にお世話になった。長澤規矩也先生の推薦で採用されたのである。ここで、諸橋轍次先生門下の今井宇三郎先生等の編纂された『机上漢和辞典』を完成させた。法政大学教授・林田不二生先生が辞典部の部長で、私は、その下で、編集責任者として勤務した。ここで、徹底的に漢字の素養を身に付けることが出来たのである。
●続いて担当したのが、文学博士・高野辰之編の『机上辞典』の全面改訂だった。和英併用の実用国語辞典である。このゾッキ本とも言われていた辞典を、まともな実用国語辞典に生まれ変わらせる為に、私は寝食を忘れて取り組んだ。そのために、徹底した改訂計画をたてた。初版10万部の編集製作費は、約1億円である。組版は新興印刷、製版は近藤写真製版、印刷は開成印刷、製本は藤沢製本、全て一流の会社である。この仕事を、私は生涯の誇りにしている。
●この辞典の〔検印〕の方式は、1冊1冊、検印紙を貼っていた。これでは、製本代も大変である。私は、著作権所有者と交渉して、「検印省略」にして貰ったが、この交渉は、10万、20万部の辞典ゆえ、大変だった。出版において、〔検印〕に関しては、著作権者と出版社の信頼関係で成立する。私は、誠実な対応をして、ようやく、加島氏の承諾を頂いたのである。
●この全面改訂の進行中に、昭和女子大学へ移らないか、というお話を頂いたが、改訂完了までは無理だと、お断りした。1年後、改訂完了、年間20万部発行と、順調に売れていた。これで、長澤先生との義理も果したので、林田先生の御承諾を頂いて、今度は、私の方から、お願いして、昭和女子大学に採用して貰ったのである。〔検印〕から、少々、横道にそれた。

■『机上辞典』

投稿者:

fukaaki

近世文学、特に、仮名草子、近世日記文学を研究している。 昭和女子大学に勤務していたが、定年退職。現在、同大学名誉教授。 仮名草子は、特に、如儡子・斎藤親盛を研究。日記文学では、井関隆子の研究をしている。