〔動く辞典〕

●今日の「天声人語」では、「新語を拾う」と題して、大槻文彦の『言海』や『広辞苑』の改訂による、収録語彙の取捨選択に関して触れている。今回の『広辞苑』の改訂は、10年ぶりだという。辞典の改訂には、莫大な費用が必要で、そうそう、改訂は出来ない。国語辞典でも、50万語前後の『日本国語大辞典』、20万語前後の『広辞林』・『広辞苑』、5万語6万語前後の『新明解』『岩波国語』などでは、それぞれ目的が異なる。

●私が担当した誠文堂新光社の『和英併用 机上辞典』は、1056頁で、4万6000語、一字漢字が5200字、併載された英語には、カタカナの振り仮名付き、各語彙には、三上秋果先生のペン字付き。教育漢字・常用漢字・人名用漢字・表外漢字、は全て区別して表示。写真・図版多数収録。附録も28だった。
●私は、この実用辞典の全面改訂を担当した時、これを〔動く辞典〕のコンセプトで編集した。従来、この種の実用辞典は、ゾッキ本と言われて、軽視されていた。しかし、読者数は多い。2ヶ月毎に増刷された。年間20万部。そこで、増刷毎に改訂を加えて、最新の情報を盛り込んだのである。収録語彙も、現在のように、ネット情報は無かった。辞典部の部員が、毎日、新聞・雑誌に目を通して、ピッアップして、一語一語、消える語か、定着する語か検討して、増刷毎に入れ替えたりした。
●世界通貨の代表的なものも収録した。ドル、ルピー、ポンド、などなど。増刷の度に、銀行に問合せて改訂した。このような、国語辞典は無いだろう。そんな工夫が、あちこちに散りばめられていた。や、此れは便利だ、と読者に思わせる、そんなことも、大部数出版ゆえに可能であったのである。原稿執筆には、大久保俊男、大森広、小沢良衛、川口師孝、清水正男、平林文雄、などの諸先生に協力して頂いた。私の先輩の先生方である。ペン字は、斯界の第一人者、三上秋果先生だ。
●昭和女子大学へ移る時、改訂の仕方を、ノート6冊に記録して、後任の担当者に引き継いだ。私にとって、辞典編集の時代は、遣り甲斐もあり、充実した日々だった。 

投稿者:

fukaaki

近世文学、特に、仮名草子、近世日記文学を研究している。 昭和女子大学に勤務していたが、定年退職。現在、同大学名誉教授。 仮名草子は、特に、如儡子・斎藤親盛を研究。日記文学では、井関隆子の研究をしている。