〔みさそひ 御誘〕

〔みさそひ 御誘〕

●今日、菊池眞一先生から、氏家幹人氏『旗本御家人』(2011年10月21日、洋泉社発行)の中に、『井関隆子日記』が引用されていることを教えて頂いた。氏家氏の記述は、次の通りである。【振り仮名、省略】
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 『醇堂叢稿』の記述の中で、鯛の味噌漬の話にもまして眼から鱗だったのは、「おさそい」や「御宅」という言葉が、幕府の役人の間では、特別の意味を持っていたという指摘である。
 「おさそい」が「ぜひお誘いください」の「おさそい」なら、驚くまでもないが、醇堂が旧幕時代の役人言葉として挙げたそれはまったく違う。醇堂によれば、「おさそい」とは「不首尾にて免せらるゝ也。何も子細あらされども、病気と称してこれを辞退する事なり」。要するに職務上の過失等を犯した幕府の役人が、罷免されたり病気と称して辞任することを意味していたというのである。
 本当にそうなのか。『広辞苑』『日本国語大辞典』『江戸時代語辞典』などめぼしい辞書で調べたが、そのような意味の「おさそい」は見つがらなかった。「面白いけど裏がとれないな」と残念に思っていたところ、旗本井関家の未亡人隆子の日記(『井関隆子日記』)の天保十五年(一八四四)九月六日の条に、醇堂の記述を裏付ける記事を発見した。
 それは、天保改革の際に庶民を苦しめた酷吏として悪評が高い鳥居甲斐守忠耀(通称耀蔵)の失脚についての記事で、隆子は「鳥井(氏家註・鳥居)甲斐守は町ノ司にて時めきつるを、此度御誘とかいひて、病にこと付、司をはなたれたり」と書いていた。
 鳥居は、実は失脚なのに病気を理由に町奉行(「町ノ司」)を罷免された。このような罷免は「御誘」と呼ばれていると、隆子は明記しているのである。彼女は「御誘」に「みさそい」の読み仮名を添えているが、これが醇堂か言う「おさそい」であることは間違いない。
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 『井関隆子日記』天保15年9月6日には、次の如く書かれている。
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「・・・鳥井甲斐守ハ町のノ司にて時めきつるを、こたび、みさそひとかいひて、病にこと付、つかさはなたれたり。・・・」
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これを、私は、校訂の時、「みさそひとかいひて」を「御誘〔振り仮名=みさそひ〕とかいひて」としたのである。氏家氏は、「彼女は「御誘」に「みさそい」の読み仮名を添えているが、」としておられるが、正確には、隆子は「みさそひ」としているが、校訂者は、これに「御誘」の漢字を当て、「みさそひ」を振り仮名にしている、ということである。

投稿者:

fukaaki

近世文学、特に、仮名草子、近世日記文学を研究している。 昭和女子大学に勤務していたが、定年退職。現在、同大学名誉教授。 仮名草子は、特に、如儡子・斎藤親盛を研究。日記文学では、井関隆子の研究をしている。