大啓蒙期の文学

2019.07.06 Saturday

大啓蒙の文章

▲むかしさる人の云るは、人間において時理の二つを分別し心得べき事也。
時理の二つと云は、春の花さく時には秋のもみぢせん時を思ひ、秋のもみぢする時には春の花さかん時を思ひ、冬のさむき時には夏のあつからん時を思ひ、夏のあつき時には冬のさむからん時を思ひ、雨ふらばはれべき時を思ひ、晴たる時には雨ふらん時を思ひ、物をならふ時にはならはざるときを思ひ、ならはざる時にはならひし時を思ひ、すりきりおちぶれたる時にはふつきなる時を思ひ、ふつきなる時にはすりきりおちぶれたる時を思ひ、奉公の時には牢人のときを思ひ、牢人の時には奉公の時を思ひ、よき事ある時には悪事あらん時を思ひ、悪事ある時はよき事あらん時をおもひ、わかき時には年よるべきときをおもひ、年よりたる時にはわかき時をおもひ、無病なる時にはわづらはん時を思ひ、わづらはん時には無病なる時を思ひ、命ある時にはしぬべきときを思ひ、しぬべき時には命ある時を思ひ、憶病なる時には剛なる時を思ひ、かうなる時には憶病なる時を思ひ、大身なる時には小身なる時を思ひ、小身なる時には大身なる時を思ひ、不忠功なる時には忠節の時をおもひ、忠節の時には不忠の時を思ひ、不孝のときには孝行なる時をおもひ、孝行なる時には不孝の時を思ひ、人のしたしき時にはうとかりし時を思ひ、うとき時にはしたしかるべき時を思ひ、おさまりてしづかなる時にはみだれてさはがしかるべき時を思ひ、みだれてさはがしき時にはおさまりてしづかなるべき時を思ひて、少もゆだんすべからず。

【『可笑記』巻5の48段】

投稿者:

fukaaki

近世文学、特に、仮名草子、近世日記文学を研究している。 昭和女子大学に勤務していたが、定年退職。現在、同大学名誉教授。 仮名草子は、特に、如儡子・斎藤親盛を研究。日記文学では、井関隆子の研究をしている。